イベント

2009/10/6

「お寺の公益性を考えるシンポジウム2009」 ―社会はお寺に何を求めているのか―

 全青協の付属機関である臨床仏教研究所では、10月6日、東京・港区の東京グランドホテルにて「お寺の公益性を考えるシンポジウム2009」を開催いたしました。昨年3月に開催した研究所の設立記念シンポジウムでは、全青協会員を対象に行ったアンケートをもとに、各界の専門家による公益性についての講義や、実際に公益的活動を行っている寺院関係者の活動紹介を行いました。

 今回は、さらに一般の人々の、お寺や僧侶に対する思いを把握しようと行った「現代人の寺院に対する意識調査」の結果をもとに、再び「お寺の公益性」についての問いを深めようと開催いたしました。

 当日は寺院関係者を中心に、研究者や一般の来場者を含め、定員を上回る140名もの参加者を迎えることができました。開催にあたり、さまざまな立場の大勢の方からお申込みやお問合せをいただき、この問題に対する関心の高さをうかがわせました。

◆一般人の寺院に関する意識とは?

 第1部は、研究員の磯山正邦による『現代人の寺院に対する意識調査報告』が行われました。この調査は当研究所が第一生命経済研究所に委託し、本年2月に行ったもので、40?69歳の一般男女600人への郵送アンケートによるものです。有効回収率は94・3%、男女比はほぼ半数でした。

 最初に、「あなたは昨年1年間にお寺を訪れましたか?」という問いには、回答全体の80%近くが「訪れた」と答えました。

 年齢が上がるにつれ訪れたという人の割合もあがり、その目的は、「お墓参り」が62・8%と全体の過半数を占め、次いで「観光・旅行」「法事」「除夜の鐘つき・初詣」と続きました。

 また、複数回答が可能な「お寺で行われたら参加したい行事は?」という問いには、「お坊さんの説法を聴く会」と答えた人が35・8%と最も多く、「座禅」「落語・演劇・音楽会などのイベント」「お葬式や戒名、お墓についての勉強会」と続きました。総体的には、お寺を会場とした娯楽的なイベントよりも、仏教ならではの行事を期待する人が多いという結果となりました。ちなみに、この質問では「どれにも参加したくない」と答えた人も18・3%存在しました。

 他にも、菩提寺までの所要時間とその訪問頻度の関係、また、今後のお寺との付き合い方に関する質問などが紹介されましたが、興味深いものとしては、「死に直面した時に信仰する宗教があることは、心の支えとなりますか?」という質問で、これに対する回答は、70%以上の人が「そう思う」「まあそう思う」と答えていました。現在は宗教離れが進んでいるといわれていますが、中年以上の世代に関してはこんなにも多くの人が「宗教によって心が軽くなる(だろう)」と感じていることがわかります。

 また、これに対して「あなたが死に直面したら、お坊さんが心の支えになってくれると思いますか?」という問いには、今度は70%以上もの人が「そう思わない」「あまりそう思わない」と答えていました。

 宗教に対する期待とは裏腹に、お坊さんとの心理的距離は決して短くなく、信頼関係が築かれているとは言いがたい、そんな現状が浮き彫りになりました。

◆「元気なお寺のつくり方」

 第2部では、宗教学者の正木 晃さんによる基調講演「歴史に学び現状に応える公益性?元気なお寺のつくり方?」が行われました。正木さんは日本とチベットの仏教を中心に研究し、大学で教鞭を取るかたわら、仏教の智恵を現代に再生し積極的に利用していこうという、各種の企画を実践しています。

 正木さんは、現在の仏教がいわゆる「葬式仏教」と揶揄されることに対して、葬儀や法事を中心に活動する現代の寺院のあり方は、日本の歴史・風土などの介在により現在の形となったもので、それ自体は決して軽視されるべきではないと語り、僧侶の妻帯や肉食の是非を問う議論などに代表される「本来の仏教とはこうあるべき」という言説に惑わされず、大切に継承するべきであると述べました。

 しかし、現実にはお経や法話の印象、また費用の面に関しても一般の方の満足度は決して高くないことに言及し、葬儀や法事を心をこめて行えているか、壇信徒の話を聞けているか、僧侶自身が常に学ぶ姿勢を持っているかなど、公益性を論ずる以前に僧侶としての「基本」を守ることが大切であると解説しました。

「僧侶は厳格な生活を送るべきとは言わないまでも、世俗の人々とまったく同じでは一般の人が納得できるでしょうか? 朝夕の勤行をきちんとする、修行を定期的に行うなど、僧侶として最低限のけじめをつけていく覚悟は必要なのではないでしょうか」という言葉は、多くのお坊さんがドキリとするところかもしれません。

 また、先日の臓器移植法改正の議論についても、「脳死の問題は、仏教者として本来真っ先に論ずるべき国民の『いのち』に関わる問題であるにもかかわらず、確固たる意見が公にはあまり出てこなかったという状況は非常に残念。このような姿勢では、いざという時に仏教も、僧侶も信用されないのでは」と語りました。

 仏教者は教学にとどまらず、社会問題全般を自身の身近な問題として学び、自分の言葉で語れるようにしておくべきと正木さんは続けます。また、寺門興隆は寺庭婦人の後顧の憂いない活動があってこそ実現すると、住職と寺庭婦人の協力体制の重要さについても言及しました。一連のお話は具体的でわかりやすく、会場では熱心にメモをとりながら話を聴く姿が目立ちました。

◆パネルディスカッション

 第3部は正木さんをコメンテーターに迎え、「公益性のある寺院活動とは」という論題で研究員4名がアンケート結果とこれまでの話をもとに、より具体的な公益的活動の内容について議論を交わしました。

 上席研究員の鈴木晋怜は、「お寺が『社会に開かれる』ことと、『公益性を持っている』ということは、同一線上で考えるべきではない」と語りました。お寺の公益性とは、ただの「公益」ではなく、宗教的な要素を基盤としなければ意味がない。それは、端的に言えば僧侶として「祈ること」ではないかと自身の見解を述べました。

 そして、「僧侶は檀家など、特定の人のためにだけ活動しているように見えるかもしれないが、平素より世界平和など、広く人々のためにさまざまなことを祈っている。その祈りがあらゆるところにおよび、世界のために目に見えない確かな力をおよぼしているとすれば、これほど公益的なことはない。寺院が具体的に何かを行っていく、その前提として祈る心や宗教心がまず大切なのではないか」と語りました。

 同じく上席研究員の神 仁は、昨年の12月に施行された公益法人三法の政府による見解に触れ、「これからは仏教寺院も一層、『公益的か否か』という観点から厳しく判じられる可能性があると述べました。そして、前述のアンケート結果をもとに、「寺院に何らかの社会的・公益的活動を期待する人はかなりの数にのぼる」とし、葬儀などの宗教的活動をこれまで通りしっかりと行っていくのはもちろん、それだけでは一般の人のニーズに応えきれていないのではないかと疑問を投げかけました。

「今の仏教者は、生老病死の『苦』を抱える人に寄り添い、話を聴き、うなずくことができているだろうか。そうした現場の苦悩の中に宗教者が飛び込むことこそ『行』となり、自身の成道観や往生観の形成と、公益的活動が両立する形になるのではないか。葬式仏教の持つ公益性ももちろん大切だが、悩みを聞いて欲しい、死に往く人の心を支えて欲しいという多くの願いがあるのだから、『葬式仏教』だけではなく、人々に寄り添う『臨床仏教』を我々は目指すべきではないか」と述べました。

◆必要なのは変革への大いなる決心

 客員研究員の小谷みどりは、紹介しきれなかったアンケートの自由回答の中で、お坊さんに対する不満として多いのは、「葬式・法事の法話がしっかりしていない」という意見だったと解説。本来のお坊さんとしての活動をていねいに、心を込めて行っていくことはとても大切だと思うと語りました。

 また、葬儀をしない「直葬」が都会を中心に急増していることを挙げ、「お坊さんたちが葬儀の場ですら求められていない現在、突然公益的活動を行おうとしても信用されないのではないか。仏教的な儀礼の意義を感じていない人が増えていることを受け止め、まず真剣に人のいのちに向き合う『仏教』を体現していくことが、皆に求められる公益活動につながるのではないか」と論じました。

 これを受けて正木さんは、「いまの仏教があまり一般の人からの信頼を得られていないとすれば、ある程度わかりやすく見せないと人は納得しない。だからこそ、仏教に基づく価値観など、目に見えないものを可視化する努力は何よりも必要」と述べ、例として「少なくとも仏教ではこう考え、こうしていったほうが幸せになれるんだ」という具体的な方針をアピールする必要があるのではないかと解説しました。

 そして、「現状を変えるには、ゼロから始めるような業界全体の覚悟が必要なのは間違いない」と、仏教界全体で大きな努力が必要となることを示唆しました。

 ディスカッションのコーディネーターを務めた客員研究員の石上和敬は最後に、「もはや、公益性があるかないかいう問題ではなく、この『公益性』という切り口がこれほど話題になっている以上、それに対して仏教の立場から真剣に一般の人の期待に応えるべき時が来ているのではないか」と語り、締めくくりました。

◆先人に続くために

 臨床仏教研究所は、全青協を母体として昨年発足しました。戦後の高度経済成長に伴い、物質至上主義が台頭する一方、子どもたちの大切なこころの成長がおざなりにされていることを憂いた政財界の識者と伝統仏教教団が、子どもたちの教化育成のために協力し創立したが全青協です。

 当時は仏教子ども会活動の推進が、全青協の重要な運営の柱でもありました。
「子どものころから仏教に親しみ、変わることのないその教えを通じて強く、そして慈しみの心を持った人間に成長してほしい」という方針に、実践的活動を行う多くの仏教者が賛同し、年月を経た現在も、子ども会を開催したり、自殺の問題に取り組んだり、地域のために尽力されたりと、多くの会員が地道な活動を続けておられます。

 現在、お寺の数は全国に約7万5千あると言われていますが,そのようにさまざまなかたちで利他的活動を行う方や、何か特別なことを行なわずとも、大きな志で仏道に邁進されている方がいる一方、こころ無く、仏教者としての意識が低い僧侶・寺院も多数あるという大きな落差を、最近ますます感じずにはいられません。
 誰よりも一般の方がそのことを敏感に感じ取り、いわゆる「お寺離れ」につながっていると言えるのではないでしょうか。

 正木さんは講演の中で、「お寺の公益性というと、つい目立つ事例ばかりがクローズアップされるが、お寺の持つ規模や能力はさまざま。地道な努力をしているところに光を当てていくことが、全体の意識を上げるため必要ではないか」と語りました。

 全青協もそのことを心に留め、誠意をもって実践をされている多くの方々とともに、さらなる支援・啓発活動に取り組んでいく所存です。

日時 2009年10月6日(火) 13:30開会 17:30閉会予定
(13:00~受付開始)
会場 東京グランドホテル
(都営地下鉄 三田線芝公園駅〈A-1〉出口徒歩2分)
参加費 無料
対象者 僧侶、寺院関係者、研究者、NPO関係者、仏教大学系学生などテーマに関心のある方だったら誰でも
プログラム 13:30~14:00 現代人の寺院に対する意識調査報告 
報告:磯山 正邦/研究員(智山教化センター所員)
14:00~15:15 基調講演:「歴史に学び現状に応える公益性」 
講師:正木晃(慶應大学・立正大学非常勤講師)
15:30~17:00 パネルディスカッション「公益性のある寺院活動とは」
パネリスト:小谷みどり/客員研究員(第一生命経済研究所主任研究員)
       鈴木晋怜/上席研究員(智山伝法院教授)
       神 仁/上席研究員(全青協主幹)
コメンテイター:正木晃
コーディネーター:石上和敬/客員研究員(武蔵野大学講師)
定員 100名
主催 (財)全国青少年教化協議会 臨床仏教研究所
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